『エンジニアリングマネージャーのしごと』を読んだ
単なる管理職ではなくて「エンジニアリングマネージャー」に特化した本として良かった。
自分も小規模なチームのリーダーをやりつつ手は動かしているので「エンジニアリングマネージャー」に当たるはずで、ここで悩ましいのがどこまで自分で手を動かすかという線の引き方になる。本書は序盤で「マネージャーのアウトプット=チームのアウトプット+影響を与えた他のチームのアウトプット」という大前提を敷いており、たびたびこの方程式を持ち出しては、それにぶら下がる形で各論を述べる、という構成になっているので納得感が得やすい。注力するべきは「チームのアウトプット」を最大化することであり、自分個人のアウトプットの最大化ではない。役割を担っている以上、周囲からもマネージャーとしての仕事が期待されるわけでもある。したがって冒頭の悩みに対する解は、まずはチームのアウトプット最大化に時間を割くべきであり、自分がコーディングなどに使う時間は二の次、というのが明白になる。まぁ言われてみればそれはそうだという話でしかなくて、二足のわらじを履いているようでいながら、実際にはマネージャーのほうに軸足が強く置かれるということになる。このことを明確かつきっぱりと突きつけてくれた上で、そのために何をするべきかも具体化してくれる。
マネージャーというのは自分で直接生産するよりは、連絡をしたり調整をしたり、というような業務が多くなるので、自分が何を成したのかが曖昧になりやすくもある。また責任範囲も大きくなるので、あれこれと心配事が増えやすくもある。このあたりについてもRACIやAppleのDRI(参考 : ジョブズが会議を生産的にした3つの方法 | ライフハッカー・ジャパン)を使って責任を明確に整理したり、マネージャーの仕事を言語化して4つに分類してくれたりしているので、自分で自分の仕事を見通しやすくなったように感じる。
心配事が増えやすい点に関しては、よく言われる「コントローラブルなものとアンコントローラブルなものを区別して、後者について心配するのをやめろ」という話が出てくる。この手の話は7つの習慣の1つとして「関心の輪、影響の輪」という形で言及されていたり、「ニーバーの祈り」などの類似概念も存在する。自分が影響を及ぼし得ないものに対して関心を持っても徒労になるという点には同意する一方で、「ニーバーの祈り」にも書かれているように、「変えられないものと変えるべきものを区別する」には「賢さ」が必要になる、つまり簡単なことではない。チーム内の不文律、チームメンバー構成、社内ルール、現状のアーキテクチャなどなど、こういったものが本当に変えられないのか、変えるのが困難なだけなのか、特にマネージャーという立場においては、如何に前提を疑った上でコントロールしていけるかというのがより重要になってくると感じた。前提や枠組みを疑えるか、という点については以下のエントリーも非常に示唆に富んでいる。「関心の輪、影響の輪」を単なる諦念として扱わないようには注意したい。
これほどつらつらと様々な概念を連想して思考できたのは、ひとえにScrapboxのおかげで、Scrapboxにメモしながら本を読むのはやはりいいなぁ、と思ったりもしたのだった。