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裁量労働制の恩恵、個々の裁量で働くということ

別に法律とか労働法とか詳しくないのでそういう話はしないけど、昨今の裁量労働制の話において、「恩恵を受けている人を見たことがない」みたいな話も聞こえてきているので、恩恵を受けていると考える立場から取りあえず書いておこうと思って筆を執る。

自分と裁量労働制

今の会社に入ってから2年半ぐらい、裁量労働制の下で働いている。それ以前の会社はいわゆる時給制の会社で、残業代もきちんと出るようなところだったが、今のほうが働きやすいと感じている。ざっくり、今の状況を箇条書きしてみる。

  • 出退勤時刻の規定がない。
    • 時給制社員もいるので、正確には一応出退勤時刻が存在するが、裁量労働制社員は縛られない。
    • 多いのは子持ちの男性社員が、子どもの送迎などで早く帰る/遅く来る場合。
    • そうでない人も来る時間はバラバラ。一部IT系でいるような、夜だけ来るみたいな極端な人はいない。
    • 雪の日に出社を遅らせるのももちろん自由。
    • 極端な話、1時間でも働けばその日は出勤扱いになる(有給がなかなか減らない)。
  • 給与は半年ごとに改定され、向こう6か月の月給が固定される。
    • 毎月の収入額が固定されているので、支出や貯金、投資の見通しが立てやすくて楽。
    • 基本的に、効率化して労働時間を減らすことをモチベとする職種なので、「労働時間が減るほど収入が減る」時給制があまり好みではない。
      • 時給制の頃は収入を減らし過ぎたくないので、暇な時期でもXX時間はコンスタントに残業するとかしていた。
  • 指揮命令系統がほぼ無く、個々人の裁量で働くことができる。
    • 従って一部で言われている「仕事量に裁量がなくて、実情は残業時間過多」という状況は少ない。
    • 「少ない」と書いたのは、例えばトラブルシュートなどで必然と労働時間が増えてしまう場合はあるため。
      • みなしの労働時間を超過して働いている場合は追加支払いがあるらしいが、該当したことがないのでわからない。
    • 上下関係はあるにはあるが、上の人間という立場は責任を取るために存在しているような形で、直接的な指示を受ける機会は少ない。上の人間もプログラミングしているし、同列に働いている。
      • それ故、入社当初しばらくは「何をしていいかわからない」状態になったりもした。

総合すると、余計なことを考える必要が無くなり、精神に余裕ができた、というのが恩恵として大きい。朝、ちょっとおなかが痛くなって電車を降りたり、そういう状況でも時間を気にしなくていいとか、今月残業少なくて給料減りそうだから、来週は少し残業増やそう、みたいなアホなことしなくていいとか。時給制の頃、残業時間の関係により、月給が前月比10万円マイナスみたいなこともあって、あれは本当に心臓によろしくなかった。

ITの、特にベンチャーと言われるような界隈では裁量労働制は少なくないと思う。先にも触れたが、我々の仕事は効率化することに重きが置かれるし、優秀なプログラマーだと何倍も速く仕事を仕上げられるみたいな法則もあるからだと思うし、あとは自分と同じく自由な働き方を好む人が多いってことだとも思う。観測はしていないが、中には違法な運用をしている会社も当然あるのだろうけど。

論点を切り分けずに一蹴するべきではない

一連の議論というか、裁量労働制に関して最近いろいろ言われるなかで、「裁量があるのは労働の開始終了時刻だけ」という話を見かけたけど、事実のようで事実ではないと思う。厚労省の専門業務型裁量労働制の解説ページを見ると、

業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務

が対象になるとあり、つまり時間だけではなくて、仕事のやり方についても裁量が存在する。この「業務遂行の手段や方法」が「業務量」まで含むのかは判断しかねるが、少なくとも仕事についてこうしろああしろと指示を受ける状態は、裁量労働制の適切な運用ではない、ということになると理解している。

ただ世の中を見渡すと、どうも「裁量があるのは労働の開始終了時刻だけ」という形で運用されている裁量労働制が多いらしい。でも「裁量労働制はメリットの大きい制度か」ということと、「裁量労働制は適切に運用されているか」は別の論点だ。

  • 裁量労働制という制度は、そもそもメリットがあるのか。
  • 裁量労働制は現状、実際にはどのように運用されているのか。
  • 適法に運用されていない状態が蔓延している場合、その理由は何か。また、それに対応する方法はあるか。
  • 適法に運用した場合、裁量労働制のメリットは拡大するか。
  • それらを踏まえた上で、安倍政権による今回の裁量労働制拡大は是か否か。
  • 否である場合、どういった形で裁量労働制を活かせるか。あるいは裁量労働制自体廃止すべきか。

こういった話に切り分けが出来るはずなんだけど、それをせずに「定額働かせ放題」のような雑なレッテルを貼って一蹴するのは、なんというか勿体無いなと、恩恵を受けている立場からは思う。

「働き方改革」に「裁量」は必要になってくる

先日関東で大雪が降ったとき、こういう日に出社時間を遅らせたり、休みにしない会社はブラックだ、みたいな話が挙がっていた。でもすごくザックリ言ってしまうと、休みたかったら休めばいいんじゃないの?と自分は思っていた。もちろん、個々の事情で出社しなければならない人もいるだろうけど、なんで全部会社のせいなんだろう、という気はしていた。

プレミアムフライデーの話も似ていて、あれに「帰れるわけないでしょ」と反応すると、そこで話は停まるわけだけど、「月末金曜は早く帰っていいらしい!じゃあ、それを実現するためにどうしよう?」とか「金曜は無理だけど、月初に帰ろうか」とか、話を発展させることはできる。まあ、そうは言ってもやっぱり現実問題、会社や上司に唯々諾々と従うのではなくて、自分なりに考えてやることをやる、ってのは難しいんだろうけど。

とはいえ自由な働き方を取り入れていきたいのであれば、裁量労働制ではないとしても、ある程度社員個々人が「裁量」を持つことが必要になると思う。本当かウソかは知らないが、よく海外の人は仕事が残っていても定時にサッサと帰ってしまうみたいな話があるけど、あれが出来るのは、その人が自らの裁量で動いている故なわけで。早く帰りたいけど自分にその裁量はなくて、上が何とかしてくれるのを待つしか無いです、自分にできることは何もないです、という態度が正解なのかはわからない。

裁量労働制、個々人が裁量で動いて成果出して、さっさと好きな時間に帰りましょうねってのが本懐だと思うので、それが一面に反対一色となるのは、まぁなんだかなと思う。どうしたら好きな働き方をみんな出来るようになるだろうね、って方向に早く議論が進んでほしい。