Lily58 Pro または私は如何にして市販品を探すのをやめて分割キーボードを自作するようになったか
2019-05-04 追記
本文内で「Ergonomic 配列」という言葉を用いていましたが、より正確には「Column Staggered 配列」という言葉が当てはまりそうなので修正しました。上下が揃った「格子配列」の状態から、各キー列が上下に少しズレて指の長さに合うようになっている配列をこう呼ぶようです。
参考: ASCII.jp:人はなぜキーボードを自作するのか? “キーボー道”への誘い (5/6)|KTUの自作キーボー道
tl;dr
- 分割キーボードは市販品の選択肢がない
- 従って自作キーボードに手を出す気はなかったが手を出すことになった
- Lily58 Pro がかわいい
Introduction
昨今、キーボードの自作が流行っているのは知ってはいるものの、手を出す気は先日までさらさらなかったんですね。というのも自分は手先が器用ではないというのが大きいところで。最後にはんだごてを使ったのは中学生の「技術」の授業ですが、四苦八苦して作った懐中電灯がうんともすんとも言わなくてだいぶしょんぼりした記憶があります。なのでやりたくはないしやれるとも思わなかったし、練習すればできるとしても、今の自分がそこに労力かけるのはちょっと違うかなみたいな気持ちがありました。
と言っているところからの即落ち2コマみたいでアレなんですが、先週末に Lily58 Pro を購入、構築して使い始めました。めちゃくちゃかわいいですね??
どうしてこうなったのかという話を書きます。
分割キーボード Lover のジレンマ
私はここ数年、メインのキーボードは Barocco MD600 を使っていました。数年前、 ErgoDox が話題になった少し後ぐらいに、 HHKB サイズで分割可能なキーボードということで話題をさらった機種です。
使い始めてまだ2年ほどで全然現役ですし、使い心地にもかなり満足していたのですが、最近になって「キーボードを持ち運びたい」というニーズが(自分の中で)出てきました。 MD600 は HHKB サイズということでギリギリ持ち運べなくもないのですが、積極的に持ち運びたいかというとそんなこともなく、可能であればもう少し小さいものがほしいというのが正直なところでした。
というわけで持ち運び用キーボードを探し始めたのですが、 MD600 にすっかり身体が慣れてしまったために、条件として「分割」が必須になります。「分割しない」という手はもう選べません。使ってみるとわかるんですが、分割キーボードの使い心地に慣れると、たとえ HHKB だろうと RealForce だろうと色あせてきます。大事なのはキータッチじゃなくて身体全体の姿勢だったんだなという悟りを開くわけです。なので私は「分割キーボード」というのは素晴らしいガジェットだと評価していますが、他人に勧めることはしません。戻れなくなります。
そしてここで壁にあたるのですが、市販品の分割キーボードは残念ながら選択肢が多くはないのが実情です。小さくて分割、というところだと、現在まず候補に上がるのは Barocco シリーズの新機種 MD650L かと思います。ロープロファイルに変更することで MD600 と比べてさらに薄くなった品で、というか「持ち運べる」「市販品の」分割キーボードはほぼこれ一択じゃないでしょうか。
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ネックだったのはキースイッチに Cherry ML を使っているという点で、どうもこれが調べた限りだとわりと評判悪いみたいです。とはいえ「自分には合う」という可能性もあるので、触って確認できればよかったんですが、ツクモなど秋葉原で数店舗を巡ってみても実機を置いているところはなく、評判が微妙っぽい機種を触らずに買うという勇気も出なくて泣く泣く諦めました。
これ以外にも Kinesis Freestyle など、分割キーボードの選択肢自体は無くはないものの、持ち運び可能なサイズという条件を満たすものは見つけられませんでした。かろうじて Ultimate Hacking Keyboard がありますが、サイズ感は MD600 とあんまり変わらないように見受けられます。そもそもにして、 MD600 の発売から2年以上を経てもなお、分割キーボードを製造、販売しているメーカーは多くありません。ウェブで IT エンジニアの動向に触れていると、分割キーボードが今の主流であるかのように感覚が麻痺ってきますが、どう考えてもそんなことはなくて、あくまでカルト的な人気なわけですね。他には「HHKBを2台横に並べる」といった剛の者が選ぶ道もありますが、さすがにちょっとそれは遠慮しておきました。
自作という選択
まぁ、というわけで「ないから作るか」という結論に至ります。おそらく、昨今自作キーボードに手を出している方の中には同じ動機の方が少なくないんじゃないでしょうか。というのも、国内で販売されている自作キーボードキットには、分割タイプが結構多いです。例えばもっともポピュラーであろう Helix や、 Ergodox のような配列の iris があります。
昨年末話題になった freee さん社内の自作キーボード事情に関する記事でも、人気トップ2がこの2種でした。
市販品の選択肢が非常に限られていたのに対して、自作界隈では分割キーボードがよりどりみどりです。はじめのうちは気になる機種をいくつか試しに眺めているだけでしたが、魅力的なものが非常に多く、なんとか頑張れば自作でイケるんじゃないかという思いが強くなりました。ただ、一方で先の freee さんのエントリーにおいても上手く作れない方の話が載っていたりして、不安があったのも事実です。 DIY だと市販のキーボードより安くなりそうに思えるところですが、実際のところ自作キーボードキットは1万円以上のオーダーで売られているので、別に金銭面でのメリットがあるわけではありません。1万数千円のキットを買って、はんだ付けに失敗して使えなくなったらまぁショックですよね。
Lily58 Pro
冒頭に書いたとおり、最終的に Lily58 Pro を選びましたが、私の条件は以下でした。
- Low Profile
- キー数は60前後
- 可能であれば
Ergonomic 配列Column Staggered 配列 - OLED あり
持ち運びを前提に考えているため、より薄型を実現できるロープロファイルがまず必須条件です。その点、当然キー数も抑えればそれだけ小型になりますが、数字キーすら排除したいわゆる 40% キーボードは使いこなせる自信がなかったので選択肢から外しました。分割じゃないですけど、 VORTEX CORE とかちいさかわいくて好きなんですけどね。
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Ergonomic 配列 Column Staggered 配列と書いていますが、より正確に言えば親指にキーが多く配置されているものです。 Helix のような完全な格子配列ではなく、 Ergodox 系の親指用のキーが少し飛び出て配置されている感じ。 OLED というのは Helix にも付いている、マイコンボード(ProMicro)の上に付けた 32 x 128 の小さなディスプレイで、キーボードの情報やなにか画像を表示したりして遊ぶことができます。まぁこれは完全に好みです。せっかくなら遊べるほうがいいなと。
それら条件すべてに合致したのが Lily58 Pro でした。先の iris などもとてもよかったんですが、 Lily58 はちょうど遊舎工房さんに在庫があるということだったので、実店舗できちんと確かめながらパーツを買えそうだったというのもあり、それにしました。キースイッチがはめ込み式で、後から別のスイッチへ変更することもできるようになっているのも魅力でした。私が遊舎工房に行ったときはちょうど目当てだった Kalih Low Profile Choc の赤軸が在庫切れだったんですが、「取りあえず他の軸を買って、あとから赤に替えることもできますよ!」と店員さんに教えてもらいました。完全に沼という感じがします。ちなみに茶軸にしました。
その後事前の心配もどこへやら、5時間ほどで無事に組み上げることができたのですが、そのあたりの「製作編」についてはまた別エントリーで書こうかなと思います。