notion と情報管理、あるいは階層整理欲求と非階層整理の両立
Scrapbox を長らくメモ環境としてはメインで使っていて、それは今も変わらないのだけど、それと並行して notion も使い始めたので、そのあたりについて書こうと思う。
Scrapbox の哲学
このブログでも過去に取り上げたことがあると思うのだが、 Scrapbox には哲学がある。ただ漠然と使うより、 Scrapboxの哲学 - 橋本商会 を一度読んでから使い始めたほうがいい。
哲学の1つに 階層整理型WiKiはスケールしない - 橋本商会 というものがある。ドキュメントツールの中には階層整理の形で設計されたものも多いが、階層分類というのは「どこに分類したらいいかわからない」という、いわゆる「こうもり問題」に苛まれることが多い。それを受けて、 Scrapbox は分類のための UI を持っておらず、ノート本文内の単語を [ ]
で囲ってリンクにする(ブラケティング と呼ぶ)ことにより、リンク同士が勝手につながって、勝手に整理されていくという形式を取っている。これは Wiki が昔から持っている機能ではあるが、ブラケティングをした瞬間に、リンク先、あるいはそのさらにリンク先のページが画面下部に勝手にずらずらと表示されるなど、ページ同士の繋がりがよりわかりやすく提示されるように設計されている。
この考え方が僕もとても好きで、知識の類は片っ端から Scrapbox に突っ込んでいる。過去に書いたメモのことなんて、忘れていることが大概だ。だから勝手に繋がってくれることが、確かにセレンディピティをもたらしてくれる。「この本の著者のことはよく知らないなぁ」と思いながら読書メモをしたためたら、その著者について、過去に聞いたあるスピーチの中で言及されていたことがわかった、なんてことはよくある。
階層構造への欲求
とはいえこのことが、階層型に対して Scrapbox が完全な上位互換となることを意味するとは思っていない。階層型と、 Scrapbox のような非階層型とは対立するものではなくて、一長一短で並立する関係と捉えている。
自分は ops 寄りのエンジニアである故もあり、システム関係のドキュメントを作る場合が特に多い。システムAの構成図、基本設計書、障害対応手順と作り、システムB、C、Dにも同様のものを作る。これを Scrapbox でやれるかと言うと、ちょっと厳しいなという思いが強まる。ほしいのは一覧性だ。ここに自分が管理している全システムの情報が集まっている、ということが、階層管理だとこんな感じで視覚的に認知できるのが嬉しい。
これが Scrapbox だと、各システムの様々なドキュメントがどれも同じカードの形でバラバラと一覧表示されることになる。検索をかければ欲しいドキュメントはすぐに見つかるのかもしれないが、そこに「全体感」のような感覚は生まれづらい。もちろんこれは好みもあるわけで、この手のドキュメントでも Scrapbox だとか、タグ管理でイケる人はイケるんだろう。
階層と非階層の両立としての notion
自分の考えとして階層、非階層は排他ではなくて、ある組織が管理したいドキュメントのうち、階層で管理したいものとそうでないものは併存し得ると考えている。 notion というツールに分があるのは、その双方を混在させずに管理できる点にある。
notion の基本構造は階層整理だ。すべてのページは階層のどこかに位置することを基本としており、画面左側のメニュー部分には、常に全体の階層が表示されている。一方で、階層を伴わない整理機能として「データベース」というものが存在している。これがなかなか言葉で説明しづらいのだが、本当に RDB のレコードのような形でページが保存されていて、それをテーブル、カンバン、カレンダーなど、好きなビューを切り替えながら一覧できる機能、というイメージに近い。ページにはタグなどのメタ情報を複数付加することができ、それをキーにしてビューを構成する。以下はメタ情報をカラムとしたテーブルのビューから、あるメタ情報(status)をキーにしたカンバンへと切り替えるデモとして撮ってみた。
そしてデータベースの中のページは、先の全体階層の中には表示されない。データベースの中だけで緩やかにスペースが区切られるようなイメージで、データベース内のページは、先のビューを使って一覧をする形になる。ただし、全体で検索をかければ、階層内のページも、各データベース内のページも同様にヒットする。ということで、 notion は大きな階層と、その節々でデータベースという小さな非階層を併存させた構造を取る。
この構造、なかなか使い勝手がいい。例えば先述したような、システムに関するドキュメントは階層構造で整理して、無限に増え得る技術 tips などの資料はデータベースでタグを付与しながら書き溜める、といった使い方が考えられる。 notion は階層構造のツールだとよく言われるけれど、個人的にはこのハイブリッド性こそが魅力の本質ではないかなと捉えている。従来の階層構造ツールでも、 Evernote のようにタグ対応しているものはもちろん存在していたが、すべてのページを階層の中にも位置づけるし、タグも付与できちゃうというものが多く、自分の経験からすると、結局どっちつかずになってしまうことが多かった。 notion は階層で分類するノートと、タグで分類するノート(=データベース)を明確に分離することができるのが新鮮に感じている。
notion の使い所
というわけで notion は良いツールだと感じていて、個人でちょっと使っている。魅力を感じているところ、つまるところ使い所は他に2点ある。
PDF の保存が1つ。最近 Scrapbox もファイルアップロードに対応したが、 notion が便利なのはページの中に PDF を埋め込んでプレビューできること。別ページで PDF 開かなくていいのが良い。様々なホワイトペーパー、製品の説明書、 ScanSnap でスキャンした書類など PDF は数多くあるものの、今までは Dropbox に取りあえず突っ込んで終わり、だったのが、 notion を使うとメタ情報としてタグ付けて整理してその場で閲覧までできるようになった。
もう1つは表。正確には先のデータベース機能になるのだが、スプレッドシートは大仰、 Markdown や Scrapbox のテーブルだと表現力がちょっと弱い、というその中間あたりをうまい具合に notion が突いている。カラムごとにデータ型の指定もできるので、これまでスプレッドシートをやむなく使っていたケースをわりと notion に移行できた。
これ以外の知識や情報などのノートには引き続き Scrapbox を使っているし、メインと言えるのはあくまで Scrapbox 。 notion のデータベースはタグによる分類を実現できるものではあるけれど、Scrapbox はメタ情報としてタグを付与する、という考え方ではなくて、ノートの中の適当な単語や一文を []
で囲んでおけば、同じ単語が出てきたノート同士が勝手につながる、という思想なわけで、こちらのほうが使う上での心理的、認知的負荷は遥かに低いし、セレンディピティの恩恵も受けやすい。 Scrapbox がまだ苦手としているところを notion に担わせる形になっている。
逆に「組織」で使うとしたらどちらのツールを選ぶか、と問われたら notion を選ぶ気がしている。アイディア出しが重要になってくる開発やプロダクトデザイン、研究などの職種であれば、セレンディピティの点で Scrapbox が良いのだろうけど、ある程度固定的な情報を扱う ops の人間からすると notion のほうが組織の情報管理にはマッチする感覚が強い。このあたりは「情報をどう取り扱いたいのか」という組織のニーズによりけりなんだと思う。ドキュメントツールには、何かしら背景に設計思想があるはずなので、そこを押さえた上で、自分たちの情報管理思想とマッチするものを選ぶべきなんだろう。逆に特に設計思想が感じられず、世の中で使われているからという理由だけでタグも階層もその他いろいろ多機能になってます、みたいなツールは使いづらい場合が多い。
今回は notion に焦点を当てて書いたけど、後日 Scrapbox と notion と、あと情報管理という点でもう1つ使っている Dynalist 含め、自分のユースケースをまとめられたらと思っている。