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『迷いを断つためのストア哲学』と認知行動療法

『迷いを断つためのストア哲学』現代人が共感しやすい「普通」の感覚の哲学 - HONZ
『迷いを断つためのストア哲学』現代人が共感しやすい「普通」の感覚の哲学 HONZ
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『迷いを断つためのストア哲学』現代人が共感しやすい「普通」の感覚の哲学 - HONZ

ぼっちを救うためのストア哲学 - 本しゃぶり で紹介されていた、 『迷いを断つためのストア哲学』という本を読んだ。ストア哲学とは、古代ギリシャのゼノンに端を発する哲学であり、『迷いを〜』は後期ストア派にあたるエピクテトスの言葉をもとにした書籍だ。

ストア哲学というのはちょっとしたブームらしい。哲学と言うとどこか高尚なイメージもあるが、ストア哲学は生活のなかでの実践に重きを置いており、ビジネスの場でも応用が利くのだそうだ。僕も以前からいくらかの場所で名前を見かけたことはあった。昨年読んだ『エンジニアリングマネージャーのしごと』の中でも「13.1.1 ストア派とあなた」という章があり、そのものズバリな言及がある。他、僕の読んだところだと『反脆弱性』のなかでも触れられていた。

知的な生活とは、痛みを感じなくてすむように感情を位置づけることなのだ。そのためには、自分の財産を頭の中で帳消しにし、失う痛みを感じないようにすればいい。そうすれば、世界が変動しても悪影響を受けることはないのだ。(中略)ストア哲学とは感情をなくすことではなく、手なずけることだ。人間を植物に変えることではない。(ナシーム・ニコラス・タレブ(著/文) 望月衛(監修 | 翻訳)『反脆弱性 上』ダイヤモンド社, 2017, p.386)

『迷いを〜』のなかではストア哲学の原則を欲求、行動、受容の3つと書いている。「ブーム」になっているストア哲学の側面は、このうち「受容」の原則が強いように思う。受容というのは、自分がコントロールできるものとできないものを見極め、コントロールできないものに関しては受容して、気にかけるのをやめよ、という話だ。『反脆弱性』からの引用部分はまさにそのことを示したものだし、その他にも様々な場所で似た話を見かける。例えば有名なもので「ニーバーの祈り」がある。

神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えて下さい。

あるいは7つの習慣における「関心の輪 影響の輪」も同様の話と言っていいと思う。ストア哲学の3つの原則のうちの1つに関してだけではあるものの、確かにビジネスの現場でよく引き合いに出されるメソッドとの関連性が強いことがよくわかる。

ストア哲学の実践という点においては、認知行動療法との繋がりもある。認知行動療法とは、心の問題をケアするにあたり、客観的に観察しやすい「認知」や「行動」を変えていくことによる効果を期待するものだそうだ。

この認知行動療法は、ストア哲学に源流を持つ、というような話があるらしい。僕は認知行動療法の成り立ちに詳しいわけではないので、実際にストア哲学を下地にして生まれてきたものなのか、後付け的に共通項が見出されているだけなのかまではわかっていない。ただ、読んではいないが『認知行動療法の哲学ーストア派と哲学的治療の系譜』という本も発刊されており、『迷いを〜』の中だけで言及されている話ではなく、ある程度一般的に認知されていることではあるようだ。

確かに、ストア哲学と認知行動療法には似ている点がある。ストア哲学において、怒りや不安などの負の感情へ対処する方法として、そういった負の感情を覚える「心像」を自分と同一視せず、切り離して受け容れよとされている。

心像とは、出来事や人や誰かに言われたことに対する最初の反応である。それに対して、一歩下がって合理的な考えをめぐらせたり、軽率に感情的な反応をするのを避けたり、直面しているものがコントロールできるものか(そうであれば行動する)、できないものか(その場合は無関係のものとする)を自問したりする。

認知行動療法もまた、負の感情そのものと対するのではなく、そういった感情を覚えたときに自分がどのように考えたのか、あるいは身体にどういった反応、行動が出たのかというところを言葉で書き下して観察し、一度自分から切り離して対処する、というフローを経る。ある場面に対してどういった思考や感情が沸き起こるか、というのは 自動思考 という言葉で表されるように、パターン化して癖になっているものらしい。Pull requestに何かコメントがついた通知が来ただけで、内容を見てもいないのに身構えてしまう、というように。この「認知の癖」を客観的に観察して気付き、変えていくことで負の方向への思考を断つのだそうだ。

なお、認知行動療法の1つ、比較的新しいものとして「マインドフルネス認知療法」というものがある。これは言葉通り、マインドフルネスの実践を通じて感情や認知から一歩離れる訓練をするものとのことで、このように辿ってくるとストア哲学とマインドフルネスにも関連性が見出せてくる。マインドフルネスの実践を単に「集中力を上げたい」などと単純化するのではなく、ストア哲学の様々な考え方に繋げていくと考え方も広がっていくかもしれない。

Afterwords

僕もネガティブに考えがちな質だったり、自己肯定感が常に低いといった課題意識があり、本書でかじったストア哲学の考え方や、そこから派生した認知行動療法、マインドフルネスは実践的に活かせそうだなと感じている。自己肯定感の低さをもたらしていることの1つに、他人からの評価をそのまま受け取れないという「癖」があるのは自分でもわかっており、なぜ他己評価を受け入れられないのかについては改めて考えてみたい。こういった作業は「脳のデバッグ」のようだなと思った。

具体的実践においては、認知行動療法がメソッドとして活用できそうだと考えている。自分の思考パターンなど、当然ながら自分自身で気付くのは難しいのだろうし、本来であれば専門家の助けを借りたほうがいいのだとは思うが、それほど深刻なメンタルの問題があるわけでもないので、『Awarefy』というアプリを使って自分で学んでみることにした。

心をケアするスキルが身につく - デジタル認知行動療法アプリ「Awarefy」
認知行動療法(CBT)にもとづく心のセルフケアアプリ。感情記録で心の波を見える化、自己分析・自己理解をしながら、ストレス・うつ気分を和らげ、睡眠改善や精神の安定をして、心の健康を保ちましょう。200種以上のマインドフルネス瞑想やヨガガイドも。
心をケアするスキルが身につく - デジタル認知行動療法アプリ「Awarefy」 favicon https://www.awarefy.app/
心をケアするスキルが身につく - デジタル認知行動療法アプリ「Awarefy」

これはいくつかの質問に応える形で考えを書き下していけば、自分の認知や行動をスムーズに記録して振り返ることができる機能や、実際に療法のメソッドを1か月かけて学ぶプログラムなどが収録されたアプリだ。フル機能を使うには月額課金が必要になるが、感情や認知を切り離して考える習慣が付くまでは続けてみようと思う。

ストア哲学自体にも興味を持ったので、原典としてエピクテトスの言葉がまとめられた『人生談義』を買った。実践を進める傍らでこちらも読んでいきたい。

人生談義 上 エピクテートス(著/文) - 岩波書店
人生談義 上 エピクテートス(著/文) - 岩波書店 favicon https://www.hanmoto.com/bd/isbn/4003360818
人生談義 上 エピクテートス(著/文) - 岩波書店